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  週明け、レッスン棟を出ると講堂へと続く回廊に藤代(ふじしろ)が、立ちふさがっていた。  ワインレッドのヴァイオリンケースに白のワンピース、ストレートの黒髪をバレッタで留め、薄化粧。外見だけはたった今「ごきげんよう」の世界から抜け出してきたような隙のない清楚系お嬢様だ。 「一週間ぶり」 「授業出なさすぎ。単位まだ残してるでしょ? 先生心配してたよ」  小言が始まった。外見を裏切るマシンガントーク。単位を残しているといっても音楽療法一科目だけなのに。  お互い母親同士が友人同士ということもあり、オムツが外れた時期まで知っている腐れ縁だ。同じ音高校に入り、同じ音大に上がることになったのも偶然じゃない。 「コンクール、お疲れさま。結果聞いたよ。聴きに行けなくてごめんね。ゲネプロ抜けられなくて。それで、神木くんに会ったって本当?」 「すごいね。どこから聞いた?」  女子ってどういうルートで情報を手に入れるのだろう。怒涛のように喋る姿に圧倒されながら考える。
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