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忘れたくない思い出がある。
わたしの隣には大好きなあの人がいた。
二人で奏でる初めての連弾。
曲目は「エンターティナー」
わたしは第一パートだったけど、その時のわたしにとっては難しかった。だけど、あの人はわたしよりも難しいはずの第二パートを易々と弾いて、子どもながらに自分が足を引っ張っていることが心苦しかった。
それでも、あの人がわたしに文句を言うことは一度もなくて、一緒に頑張ろうって励ましてくれた。
ちゃんと弾けた時は、二人で笑ってハイタッチした。
その時のあの人の輝くような笑顔。
忘れたくない。
忘れたくない――なのに。
思い出そうとすると、水面に波紋が広がるようにその笑顔が揺らぐ。
なぜだろうとそれを不思議に思う気持ちも、ゆらゆらと揺れて不確かなものになる。
ゆらゆら揺れて遠くへ消える。
「忘れたくない」
そしてただ、その思いだけが残される。
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