第1章 懐かしい眼差し

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 あの後、大和の家にみんなで入り、お茶なんて飲んではみたけれど全然会話は弾まなかった。大和と妃実ちゃんのどこか白々しい近況報告と、たまにそれにわたしも加わる程度の雑談。  久遠さんにいたってはほとんど口を開かなかった。久遠さんの声聞いたのは「はじめまして」の挨拶ぐらいだったような気がする。  彼は一体どういう人なのだろう?  深く聞きたかったけど、その場では聞けなかった。聞いたところで大和も妃実ちゃんもちゃんと答えてくれそうにない雰囲気だった。  それに、本当は聞くのが怖い気もした。  久遠さんはわたしをまっすぐに見る。その目がわたしは怖かった。  知らない人なのにずっと前から知っているような、そんな気にさせられる視線。  懐かしい――なぜかそう感じた。そう感じると同時に胸のあたりが苦しくなった。それはこれまで味わったことのない胸の痛みだった。 『あなたは一体誰ですか?』  ――聞きたいけど、聞けなかった。
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