第1章 懐かしい眼差し

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「雨宮さん?」  動かないわたしを不思議そうに覗きこみながら平くんがお冷をグラスに注いでいる。ハッと我に返った。 「ご、ごめん。わたしが行くから」  平くんの用意したお冷を半ば奪うようにして、それをトレイに乗せた。窓際の一番手前の席に座った久遠さんに、一つ深呼吸をして歩み寄る。 「いらっしゃいませ」  小さく声をかけてお冷を置くと、久遠さんが顔を上げ、少し遠慮がちに笑った。 「ごめん、突然」 「いえ、別に……でも、どうして?」 「大和にここでバイトしてるって聞いて。9時までなんだろ? 送るから、それまで待っててもいいかな」 「――へっ?」 「大和には許可もらってる。オレも大和んちに戻るから、ついで」 「あ……それなら」  そういうことなら断るのも逆に変なのかもしれない。  頷いてそのまま戻ろうとしたわたしの背中に「カフェオレ」と久遠さんの声がかかる。すっかり注文のこと忘れていた……。 「なんだ、里珠ちゃんの知り合いだったの?」  戻ったわたしに夕子さんが興味津々のキラキラした目を向ける。それでも注文を告げると、きびきびと手を動かし始めた。
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