第1章 懐かしい眼差し

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「もしかして新しい彼氏?」 「え、雨宮さん、カレシと別れたんですか?」  平くんまでひそひそと話に入ってくる。わたしは眉を顰めて同じようにひそひそと言葉を返した。 「別れてません。あのお客さんは彼の友達」 「なんだ、そうなんすか――あ。ありがとうございました」  客の一人が席を立ったのを見て、平くんはすぐにレジの方へ向かった。いつもながら機敏だ。 「里珠ちゃんの彼もカッコいいけど、あの人もすごくイイね。類は友を呼ぶっていうのかな」  夕子さんの言葉に苦笑い。たしかに二人とも見た目はいいとは思うけど。 「それはちょっと意味が違うと思う……」 「そうだっけ――ハイ、カフェオレ」  夕子さんがカップをカウンターに置いた。それを受け取って久遠さんのもとへ運ぶ。 「お待たせいたしました」 「あ。ありがと」  久遠さんは窓の外からわたしに視線を移し、目を細めて笑った。 「――」  あ、また――。  初対面の瞬間に感じた、あの胸の痛みが甦る。  慌てて目を逸らし、軽く頭を下げて席を離れた。  どうしてだろう「懐かしすぎて」胸が痛い。息が詰まるような感じがした。その理由がわからないことが、どうしようもなく不安だった。
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