第1章 懐かしい眼差し

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3  店からやや離れたところのガードレールに、久遠さんは足を投げ出して腰かけていた。街灯の下のその姿はまるでスポットライトを浴びているようにキレイで、思わず見惚れてしまった。久遠さん、足長い。  ボーっとしていたわたしに気付いて久遠さんが立ち上がる。わたしは慌てて駆け寄った。 「ご、ごめんなさい、お待たせしました!」 「いや、大丈夫。そんなに待ってないから。さ、いこ」  久遠さんはゆっくりと歩き出した。一瞬迷ったものの、久遠さんの右隣に並んだ。後ろをついていくのも変だろう。  久遠さんはわたしより頭一つ分ぐらい背が高かった。大和よりも少しだけ高いかな……そんなことを思いながらちらりと横顔を窺った。顎の右側にわりと目立つほくろがあるのに気付きハッとする。 「あ……」  何かがサッと頭をよぎった。でも、道路を走る車が鳴らしたけたたましいクラクションのせいで、頭の中の何かは掴む間もなく散っていく。もう何も残っていない。 「一度ゆっくり話がしたかったんだ」  前置きも何もなく、久遠さんがポツリと話し始めた。 「大和にそう言ったら、バイト先を教えてくれた。急に押しかけて悪いと思ってる」 「い、いえ……」  一体どう答えればいいのかわからない。  そもそも、わたしと話がしたかったということ自体が理解できなかった。それを大和に言ってとか……何それ。 「大和っていい男だよな」  これまた話が飛ぶ。全く話の方向性が見えないまま、曖昧に頷いた。  「ええ、と……まあ……?」  久遠さんはクスッ笑う。 「優しいし、家は金持ちだしな。里珠は幸せだな」 「――」  思わず足を止めた。止めずにはいられなかった。二、三歩先に進んで久遠さんが怪訝そうに振り返る。 「どうかした?」 「今、久遠さん――」 『里珠』って。わたしのことを「里珠」と名前で呼んだ。当たり前のようにサラリと。
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