第1章 懐かしい眼差し

14/48
前へ
/222ページ
次へ
「あ……!」  久遠さんはようやくそのことに思い当たったようで、しまったとばかりにと口許に手をやった。 「ご、ごめん。大和たちがそう呼んでたからつい。会ったばかりなのにいくらなんでも馴れ馴れしいよな。不愉快にさせたのなら謝る」 「い、いえ……」  別に不愉快なんかではない。それどころかあまりにも違和感がなさすぎて。  そう呼ばれることが当たり前のようで。  そんな自分の感覚がまた不思議でたまらない。なんだろう、これ。 「別に名前で呼んでもらっても構わないですけど」  戸惑いながらも、気が付けばそんなことを口走っていた。久遠さんの顔が嬉しそうに晴れる。子どものような無邪気な表情。 「そっか。よかった。それじゃさ、里珠もオレの事名前で呼んでいいよ。それでお互い様だ。ほら、呼んでみて?」 「えっ? え、えっと……葵、さん?」 「さん、いらない」 「で、でも……」 「いらないって。オレたち、同じ年」  これには少し驚いた。大和の友達というから、てっきり年上だと思っていた。でも同い年なら……。 「じゃ、じゃあ遠慮なく――葵」 「――よし!」  何が「よし」なの?  ……最初は大人しい人かと思っていたけど、そうでもないかも。  とりあえず……変な人だ。
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!

178人が本棚に入れています
本棚に追加