第1章 懐かしい眼差し

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4  大和の家の前で葵とは別れた。この時間に家を訪ねると言うことは、葵は今夜は大和の家に泊るのだろう。 「里珠は寄っていかないの?」と訊かれ、苦笑いしてしまった。そう安易にこんな夜に男の人の家を訪ねるなんてことやってたら、親からはすぐに交際を反対されてしまう。いくら幼なじみの大和でも――いや、相手が大和だからこそ、変に家族とこじれることは避けたかった。  なんて、そんなこといちいち葵には説明しなかったし、葵も何も訊いてはこなかったけれど。  家に帰ると、お母さんとお父さんが居間でテレビを見ながらビールを飲みかわしていた。いつもの光景だ。うちの両親は子どもの目から見ても仲がよろしい。お母さんがにこやかにわたしを迎えた。 「おかえり、里珠。お疲れさまー」 「ただいまー。お父さん、おかえり」 「おう。ただいま。どうだ、お前も一杯?」  すでにちょっとほろ酔い加減のお父さん、未成年のわたしにも平気でビールを勧めてくる。それもわりといつものことだ。いつものごとく、丁重にお断りすることにしよう。 「ごめん。疲れたからやめとくー。風呂入って寝るねー」 「おお、そうか。じゃあ、ゆっくり休め」 「ありがと」  わたしはそのまま居間を出しようとして、ふと思いついて足を止めた。 「あ、そうだ」  二人が同時に振り返る。 「なんだ?」 「どうしたの?」 「あのさ、わたしの救急車嫌いって何か理由があったっけ?」  軽く……本当に軽く訊いてみたつもりだったのだけど。  ふたりの笑顔がピタリと貼りついたように動かなくなった。その反応に首を傾げた時、こめかみに、ズキッと軽い痛みが走った。  まるで――そう、警鐘のような痛み。
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