第1章 懐かしい眼差し

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 葵にも話した通り、自分の救急車嫌いの理由をこれまで深く考えたことはなかった。当然、両親にも訊いてみたことはない。だけど、今思えばそれさえも不思議だ。何故考えなかったのだろう? 何故訊かなかったのだろう?  もしかして、考えなかったのではなく、考えられなかったのかもしれない。訊かなかったのではなく、訊けなかったのかもしれない。 『オレも救急車は苦手だ……――ちゃんと原因があるんだよ』  唐突に葵の言葉を思い出した。そのとたん、こめかみが鋭く痛み出した。さっきも感じた痛みだ。でも今度はさっきよりも激しく、長く続く。 「っ……」  頭を抱えるようにしてしゃがみこんだ。  痛い。頭が割れるように痛い……! 「な、に、これ」  得体のしれない頭痛に恐怖すら覚える。その時、肩から提げたままのバックが振動を伝えてきた。携帯電話だ。 「う……」  痛みに耐えながらバッグの中からそれを取りだした。  大和からの着信――そう確認したとたん、それまでの頭痛が嘘のようにスーッと和らいでいった。意識が痛みよりも携帯電話に向いたせいなのかもしれない。  よくわからないけれど、とりあえず頭痛が治まりつつあることにホッとした。
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