第1章 懐かしい眼差し

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「もし、もし……」 『もしもし、里珠?』  わたしの名を呼ぶ大和の穏やかな低温が耳に心地いい。思わずため息が漏れた。そしてそれはきっちり向こう側にも伝わってしまったようだ。 『どうした? 何かあったのか?』  心配そうな口調に変わる大和。大和から見えるはずはないのだけど、つい小さく首を振った。 「ううん、なんでもない。少し頭が痛くて」  話しながらベッドに移動して、そのままゴロンと仰向けになった。それだけでも体が楽になる。 『頭痛いって、大丈夫なのか?』 「うん。平気。大和の声聞いたら治まった。薬より効くかも」 『そりゃ……お役に立てて何より』  どこか間の抜けた返事がおかしくて、つい声を立てて笑ってしまった。大和も笑う。 『でも本当に大丈夫なのか?』 「うん」    嘘じゃなく頭痛はすっかり消えてしまった。 「もう大丈夫。ところで、何か用だった?」  こんな時間に彼から電話があるのは実は珍しい。付き合っているにしては少し変かもしれないけれど、大和とはあまり電話で話すことはない。家が近いせいもあるし、お互いに電話はちょっと苦手だ。 『いや、別に用じゃないけど……』  大和は一度言い淀むように言葉を切ったけれど、すぐに続けた。 『さっき、葵と一緒に帰って来ただろ? どんな感じだった?』 「……え?」
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