174人が本棚に入れています
本棚に追加
/222ページ
「もし、もし……」
『もしもし、里珠?』
わたしの名を呼ぶ大和の穏やかな低温が耳に心地いい。思わずため息が漏れた。そしてそれはきっちり向こう側にも伝わってしまったようだ。
『どうした? 何かあったのか?』
心配そうな口調に変わる大和。大和から見えるはずはないのだけど、つい小さく首を振った。
「ううん、なんでもない。少し頭が痛くて」
話しながらベッドに移動して、そのままゴロンと仰向けになった。それだけでも体が楽になる。
『頭痛いって、大丈夫なのか?』
「うん。平気。大和の声聞いたら治まった。薬より効くかも」
『そりゃ……お役に立てて何より』
どこか間の抜けた返事がおかしくて、つい声を立てて笑ってしまった。大和も笑う。
『でも本当に大丈夫なのか?』
「うん」
嘘じゃなく頭痛はすっかり消えてしまった。
「もう大丈夫。ところで、何か用だった?」
こんな時間に彼から電話があるのは実は珍しい。付き合っているにしては少し変かもしれないけれど、大和とはあまり電話で話すことはない。家が近いせいもあるし、お互いに電話はちょっと苦手だ。
『いや、別に用じゃないけど……』
大和は一度言い淀むように言葉を切ったけれど、すぐに続けた。
『さっき、葵と一緒に帰って来ただろ? どんな感じだった?』
「……え?」
最初のコメントを投稿しよう!