第1章 懐かしい眼差し

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「ねえ、どうしたの、大和? ちょっと変――」 『なあ、里珠』  わたしの言葉を大和はやんわりと遮った。 「な、何?」 『……好きだよ』  一瞬、心臓が止まるかと思った。それぐらい驚いてしまった。耳に当てた電話から聞こえたそれは、まるで耳元でささやかれたかのように聞こえたから。  一拍置いて、ようやく胸がドキドキと騒ぎ出した。体中の血が顔に集まって来ているような気がする。 「な、なに、急に……!」 『言いたくなっただけ。好きだよ、里珠』  照れた様子もない真っ直ぐな大和の言葉。あまりにも心に沁みて、何も言えなくなってしまった。クスクスと大和が笑う。 『やっぱり、顔見て言いたいな。なあ、里珠、今からウチにおいでよ」 「――ええっ?」  驚き過ぎて思わずガバッと身を起こしてしまった。その様子が見えている訳もないのに、タイミング良く大和が笑い声を上げた。 『声でかいよ、里珠。冗談だよ、冗談。とりあえず、ウチには今葵いるから、来てもらってもなぁんにもできないし逆に辛いけど』  まだ大和の声には笑いが含まれている。ドキドキしっぱなしの心臓を落ち着かせるように、わたしは大仰なため息をついた。 「ま、まったくもう、人をからかって」 『別にからかってはいないけどね。今度はちゃんと顔見て言う。ということで、また明日な。夜更かしなんかしないで早く寝ろよ』 「やだな、大和。お父さんみたい。――わかってるよ。また明日ね」  バイバイ、と言って電話を切った。自分の声が聞こえなくなった部屋は、当たり前だけどしんと静まり返っていた。
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