第1章 懐かしい眼差し

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「里珠、行くよ?」  わたしの動揺なんて気にするでもなく、大和がのんびりと振り返る。大和にとって、あの程度のスキンシップはきっとどうってことないのだろう。  こういう時の大和はとても大人びて見える。たった一歳しか違わないのに……というか、わたしが子どもなだけかもしれないけれど。  気を取り直して大和の隣に並ぶと、大和はにっこりと笑った。  大和はとても整った顔立ちをしている。切れ長の奥二重の目が笑うと三日月形に垂れて、精悍な顔が一気に優しげになる。その優しい笑顔にわたしはいつも見惚れてしまう。  不思議だ。大和とは物心ついた時から一緒にいるのに、未だにその人の姿を見てドキドキしているのだから。それはやっぱり、大和がわたしの初恋の人だから――? 「あ!」  つい声を上げてしまった。大和が驚いたように顔を向けた。 「な、何、突然?」 「ごめん、急に思い出して。今日ね、夢見たんだ」 「夢?」  わたしは勢い込んで続けた。 「そう。子どもの頃の大和とわたしの夢。連弾しようねーっていう頃の」 「あー」  大和は苦笑めいた笑みを浮かべながら空を仰いだ。 「あの連弾、ね」 「うん。なんかすっごい懐かしかったなー。あの頃からわたし、大和のことがす――」  好きだったんだよね、と続けようとしたけど続かなかった。照れたからとかそういうことではなく、驚いて言葉が出なかったのだ。何気なく向けた視線の先に、あの人がいたから。
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