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つい足を止めてしまったわたしに、大和も不思議そうにその方向に目を向ける。
「……葵」
大和がポツリとその人の名を呟いた。
右側前方にある小さな通りの横断歩道の前にその人は立っていた。斜め後ろからしか見えないけど確かに葵だ。何をするでもなくただ立っている。信号待ちをしているのではない。その信号は既に青だ。ポツリと立っているのは葵だけ。通りすぎる人が訝しげに彼を振り返っていく。
「な、何やってるんだろう?」
「……さあね」
大和は葵のいる横断歩道とは反対の方にサッと向きを変えた。駅に行くには確かにそちらに曲がるのだけど、その素っ気ない態度が気になった。
「大和? 声かけないの?」
「いいよ、子どもじゃあるまいし。ほっといていいって」
「で、でも」
「里珠、いいから」
柔らかに、それでも反論を許さない調子で大和が言う。スタスタと先を歩く大和にもう何も言えなくなった。
確かに葵は子どもじゃない。いちいち声かける必要はないのかもしれない。だけどあんなふうに立ち尽くしてるなんて、気になるじゃない。
それに、そんな葵を気に留めようとしない大和のことも。
大和の隣に並びながら、チラリと後ろを振り返ってみた。
葵は同じ場所にまだじっと立ち尽くしている。
その目は前を流れる車の列を見つめているのか、それとも別の何かを見ているのか、わたしにはわからない。
もしかしたら、大和にはそれがわかっているのかも――どこか頑なな大和の横顔を見ながら、なぜかそんな気がした。
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