第1章 懐かしい眼差し

29/48
174人が本棚に入れています
本棚に追加
/222ページ
「あ、ここ……」  小さな通りの横断歩道を渡ろうとして、思わず足を止めた。  この横断歩道、今朝葵を見かけた横断歩道だ。  葵はここで一体何をしていたのだろう。  首を傾げつつ、わたしにとっては何も変わったところのないその横断歩道を渡る。渡ってしまってからもう一度振り返ってみたけれど、やっぱり特に何があるわけでもなかった。  今度会ったら聞いてみようかな――そう思いながら歩を進める。その時に道の横にある児童公園に目をやったのは無意識だったのだけど。 「――え?」  目を疑った。公園入口付近の銀杏の木の下に、まさに今しがた考えていたその人がいたのだ。 「葵?」  思わずそこへ駆け寄った。葵はとうにわたしのことには気付いていたようで特に驚いた様子は見せなかった。 「おかえり。バイト帰り?」 「うん。葵は何やってるの?」  こんな小さな児童公園、夜に来るような所ではない。こんな人気のない場所で木に寄りかかって一体何をしているのだろう。
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!