第1章 懐かしい眼差し

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 大和がどこか困ったような笑みを浮かべ、その彼の肩を抱くようにしてわたしたちの前に押しやった。そしてたっぷりと間を取り、ゆっくりと彼を紹介した。 「こいつ――久遠葵(くどおあおい)、だよ」  その直後、ばさり、と音がした。妃実ちゃんが持っていた自分のトートバッグを落としたのだ。 「妃実ちゃん?」  妃実ちゃんは目を真円に近いくらい見開き、ゆっくりと口許を両手で覆う。その手が――体全体が小刻みに震えていた。見開かれた目が注ぐ視線の先には久遠さんがいる。 「うそ……」  うわ言のような呟きが妃実ちゃんの口から漏れた。 「葵のわけが――」  妃実ちゃんの体が膝から崩れ落ちる。 「! 妃実ちゃん!」  つい手を出して体を支えたけれど、重くて一緒に倒れそうになってしまう。それを免れたのは、大和が反対側から妃実ちゃんの体を支えてくれたからだ。とりあえず、ホッと息をつく。  それにしても、どうしたの妃実ちゃん……久遠さんを見て?  振り返ると、久遠さんの真っ直ぐな視線とぶつかった。 「!」  わたしは思わず息をのんだ。  久遠さんはわたしを見ていた。  倒れそうな妃実ちゃんではなく、それを支える大和でもなく、ただ真っ直ぐに、わたしだけを静かに見つめていたのだ。
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