その村

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数少ない挑戦者たちもまた、厳しい旅路に挫折したり、途中で目指す道が変わったりした。 数年に一度、長い旅路を終えて、これこそ本物だと声高に報告する者もあった。 しかし大抵はホラ話として片づけられていた。 もしかしたら、本物だったのかもしれない。 彼らが語る冒険物語は、時に真実に近いと思われた。 しかし誰もその見た目を知らないのだ。 その辺の木になっている、ありきたりなカリンにしか見えなかった。 あるいはカリンの形をした、別のものか。 嘘と思われても仕方がなかった。 勇者が手にする、ということが疑いに拍車をかけた。 黄金のカリンが本物ならば、その人物を勇者と認めなければならないのだから。 人々は勇者を求める一方で、現れることを拒否していた。 夢が現実になることを恐れていた。 誰もが疑わずに信じられる証拠がなければ、信じたくない――。 そう口にする訳ではなかったが、さっきまで自分と同じ場所にいた人間が一瞬で見えない高いところに行ってしまう姿は妬みの対象になるものだ。
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