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私にできること
私にできることは、これしかない。
間宮が悪魔であることを知っているのは私だけだ。
だから、私が間宮を止めなければならない。
だが、これまでの私は、無意識にリスクが自分がおよぶことをさけていた。自分が傷つかず、安直に間宮を消滅させようとしたから、うまくいかなかったのだ。
私はタイムマシンの燃料をたしかめた。
さっきのフライトの往復で、きれいに半分なくなっている。半分まで減っていた燃料が、さらに半分に。残りは四分の一。あと二回、飛べる。
メカニカル担当の間宮なら、何度でも新しいマシンを造ることができるが、私には、この二回を最大限に利用することしかできない。
私はもう一度、十年前のあの日へ飛んだ。
人目につくところで間宮を殺すわけにはいかない。
学校が終わるより、かなり前に来て、私は待っていた。
なるほど。注意していると、あとから、一人めの私と二人めの私が来た。だが、話している時間はなかった。授業終了のチャイムが鳴り、児童たちが校舎から出てきている。
一人めの私は、やや離れたところから、うかがっている。二人めの私は間宮を見つけると、すぐさま、かけよってきた。
私も走りだし、間宮と二人めの私のあいだに立ちはだかった。
子どもの心臓をねらったからだろう。刃は脇腹に刺さった。
二人めの私がギョッとしている。
私は一人めの私にも聞こえるように、大きな声で叫んだ。
「私は三人めだ。この方法では失敗する!」
それだけで、一人めと二人めの私は察したようだ。それぞれタイムマシンに乗り去っていった。
よかった。とりあえず、今、この場で間宮が殺されることは、これでもうない。
きゃあきゃあと、まわりの子どもたちが悲鳴をあげる。とはいえ、何が起こったのか、誰も気づいていない。
私は傷口から血が流れないよう両手で押さえ、タイムマシンに乗りこんだ。
傷は深い。立っているだけでツライ。
だが、まだ、ここで死ぬわけにはいかない。
私は現代へ帰った。
ただし、タイムマシンが完成した記念すべき日ではない。
何もかもがうまくいき、幸福の絶頂だった、あの日。
もう、あのときには戻れない。
私がむかったのは、実験飛行をする前日だ。真夜中までマシンの点検や整備調整を間宮と二人でしていた。
夜の十一時。本来の私は仮眠をとるために出ていった。三十分だけの休憩だ。
だが、三十分もあれば充分だ。マシンはすでに完成している。整備もほぼ終わっていた。このあとの最後の微調整でも問題はなかった。
三十分あれば、この世から悪魔を消し去ることができる。
私はなにげないふりをして、研究室へ入った。
間宮が気づいて微笑をなげてくる。
「いよいよ完成ですね。教授。この実験さえ成功すれば、どんな願いだって叶えることができるようになりますよ」
こんなときだが、やはり、その笑顔には魅了される。
こいつは生まれながらに悪魔だったんだろうか?
それとも、時間を超えるという神のような力を得たために、こいつのなかの悪魔が目覚めたのだろうか?
だとしたら、やはり、私のせいなのだろう。
私は責任をとらなければならない。恐ろしい悪魔をこの世に解き放つ、きっかけを作ってしまったことを。たとえ、私自身の命をかけてでも。
私は痛みをこらえ、タイムマシンのなかへ入った。
そして、さりげなく間宮に声をかける。
「間宮くん。ちょっと、ここを見てくれないか。機器の調子が変だ」
「え? どこですか? さっき、入念に点検したはずなんですが」
疑いもせずに入ってくる間宮の頭をスパナでなぐった。間宮が倒れ、失神する。
そのすきに、私はタイムマシンのハッチをロックした。機器を操作し、目的地を設定する。
「間宮くん。記念すべき初フライトだ。君を四十六億年前の地球に招待するよ。まだ誰も人類がふんだことのない大地をふめるんだ。ただし、その大地があればだがね」
生まれたばかりの地球。
まだ煮えたぎるマグマしか存在しない世界。
到着と同時にマシンはその高熱により溶解する。
さよなら。愛花。
今度こそ、幸せになってくれ。
もうろうとする意識のなかで、私はエンジンを起動した。
時の流れに、マシンは光の矢のように放たれる——
了
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