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『アイツ』と出会ったのは、放課後の屋上だった。
転落防止の、腰の高さまでの柵にもたれた少女は、やってきた俺を──おそらく、鍵のかかった屋上に、自分以外の人間が来るなんて思っていなかったのだろう──驚いたように、まん丸の大きな目を見開いて迎えた。
よく手入れされていそうな長い髪は、夕陽の橙がかった光を浴びて、ほんとうはきらきらと輝くはずなんだろう。……半透明の、どう見ても、生きた人間のようには見えない姿じゃなかったならば。
まあ、そんなのは、後付けで思ったことで。
俺を見た彼女は、心底嬉しそうに瞳を潤ませたから。不覚にも俺はその顔に見惚れてしまったのだ。
「──…!」
彼女が何やらわめく言葉も、さっぱり耳に入ってこなくて……でも、そんな理由なんて言えるわけなくて。
今さら、あの時はなんて言ったんだ、なんて聞けずにいる。
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