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ドキドキしながら登校したけど、勿論斎藤君は普通だったし、カツラと眼鏡で僕の顔は誰からも良く見えないしで何とかなりそうだった。
やっぱり、挙動不審になってしまったけれど、元々コミュ障かっていうくらい人付き合いが出来ない僕なのでもともとそんなもんという扱いだった。
嬉しいのか悲しいのかは良くわからない。
でも、斎藤君に僕の気持ちが知られてしまったら間違いなく気持ち悪いと思われるから、きっと良かったんだ。そう一人で納得した。
◆
「おー、ジミ男君、バイトの件はどうだったんだ?」
吉野君に言われ、斎藤君の方を見た。
「そのジミ男っていう呼び方はもう固定なんだ?……バイトは昨日から働き始めてるけど。」
「なあ、ソウには会ったか?」
僕がソウという単語にビクリとしてしまった間もどんどん話は進んで行った。
「いや、でも昨日撮影はあったみたいだぞ。」
「え、マジ!?そんなこと言っちゃっていいのか?」
「ああ、確認したけど別にいいって言ってたぞ。」
「うわー、もしかしたらソウに会えるかも知れないじゃん。あったらサインよろしくな!!」
吉野君は興奮したように、撮影って今度どんな格好するんだろう、と山田君に話しかけていた。
ああ、あんな風に、普通に斎藤君と話せたらいいのになあそう思いながら斎藤君の事を見ていると不意に目があった。
たったそれだけの事なのに、心臓がバクバクと音を立てる。
「昨日のあれ、何の撮影だったんだ?」
「え?えっと確かメンズ物の香水のプロモーションだって言ってたよ。」
「もしかして、どこかとタイアップなのか!?うわー楽しみだなあ。」
「吉野、またバイト入れまくって、金貯めんのか?」
「勿論、ソウの付けてる香水だろ?ぜってー買うよ?」
山田君も入ってきて皆でわいわいと話した。
斎藤君を見ると少し切ない気持になるけど、何とか学校生活続けられそうだ。
明るい、吉野君と山田君につられ笑っていた僕は、斎藤君が意味深な視線を僕に送っている事にこの時はまだ気が付けなかった。
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