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「ええと…崎田、カズキさん?」
「いえ、数漢字の一と貴金属の貴で、カズタカと読みます」
生真面目そうな表情の男は、背筋を伸ばしたままで読み方を訂正した。
全く、近頃の名前は読みにくくていけない。
そもそも書類にルビくらい振ってくれたら良いのではないか。
そのくらいの気配りができないのだから、僕の業務がスムーズに運ばないんだ。
残業ばかりなのは僕がお喋りな訳じゃない。そこはハッキリしておきたい!
手にしたペンで、書類の一貴の字に小さく書き込みを入れた。
「私の名前を一発で読めた方はいませんから。
ここ何年も新入社員が来るたびにこの繰り返しです。さすがに言い飽きました」
「そうですか」
「何通りも読めそうな名前だったのが悪い。彼らもわざと読み間違うわけじゃなし、良かれと名付けてくれた両親も悪くない」
「崎田さんは良い方ですね。それでは悪者はどこにも存在しません」
「いや、私はいい人間じゃないですよ。
現に、さっきぶつかってきた若者には正直怒りを覚えました。あっちからぶつかったのに、いきなりキレられたんですよ」
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