第2章 崎田が言うには

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「ええと…崎田、カズキさん?」 「いえ、数漢字の一と貴金属の貴で、カズタカと読みます」 生真面目そうな表情の男は、背筋を伸ばしたままで読み方を訂正した。 全く、近頃の名前は読みにくくていけない。 そもそも書類にルビくらい振ってくれたら良いのではないか。 そのくらいの気配りができないのだから、僕の業務がスムーズに運ばないんだ。 残業ばかりなのは僕がお喋りな訳じゃない。そこはハッキリしておきたい! 手にしたペンで、書類の一貴の字に小さく書き込みを入れた。 「私の名前を一発で読めた方はいませんから。 ここ何年も新入社員が来るたびにこの繰り返しです。さすがに言い飽きました」 「そうですか」 「何通りも読めそうな名前だったのが悪い。彼らもわざと読み間違うわけじゃなし、良かれと名付けてくれた両親も悪くない」 「崎田さんは良い方ですね。それでは悪者はどこにも存在しません」 「いや、私はいい人間じゃないですよ。 現に、さっきぶつかってきた若者には正直怒りを覚えました。あっちからぶつかったのに、いきなりキレられたんですよ」
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