第2章 崎田が言うには

3/4
前へ
/10ページ
次へ
「ほぉ、最近の若者は…」 「違います。私の職場にいる子たちは、決してそんなことはありません。 若者だからとひと括りはいけませんよ、先生」 「やっぱり、良い人じゃないですか」 ふふ、と笑うと先生は手元に何かをメモした。 「出先からオフィスへ帰る道で、一軒家の前を通りました。 そこから急いで飛び出してきた若い男にぶつかられて、尻餅をついたんです。 そしたら、詫びるどころか興奮したようにあれこれ悪態をついてきて、突然のことで言葉が出ないでいると、いきなりツバを吐きつけてきたんです」 「今どき、そんなことする輩がいるんですか?古い洋画でしか見たことがない」 「私も唖然としました。じっと見返したら、すぐに目を逸らして何か喚いてから立ち去っていきました」 「そうですか。それは災難でしたね」 言いながら、書類から目を離すと、先生は崎田に向き直った。 「有難うございました。もうお帰りいただいて結構ですよ」 唐突に結果だけ告げられて、崎田は驚いたように真っ直ぐ見返した。茫洋と微笑む彼は、もう聞く姿勢になくて。 仕方なく、崎田は言われた通りに立ち上がった。 一礼して振り返り、入ってきたドアへと歩き出す。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加