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「あ、崎田さん 。ポケットからハンカチがはみ出してますよ」
ふいにかけられた言葉に、はっとする。
「ああ、さっきの…スーツについたツバを拭いたから。こんな汚いもの、捨ててしまっても…」
「いいえ、お持ち帰り下さい。きっと大事なものになりますから、 騙されたと思って是非」
背中にかけられた先生の声が、さっきまでの優しそうな雰囲気とはどこか違って聞こえた気がした。
「持ち帰ります。ここで先生に処分していただくわけにはいきません」
「やっぱり、崎田さんは良い方だ」
ふふ、と笑いを含めた褒め言葉を背に、崎田はハンカチをポケットに押し込むと入ってきたドアを開いた。
その際、ドアのすぐそばにあるソファに座っていた女の子が視界に入ったかどうかは分からない。
見えていたとして、記憶に残ったかどうかも分からない。
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