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舌の上の先輩は前頭部が鋭い牙に抉られ、流れる血が涙のように目を経由して落ちていく。
その無念を汲み取ろうにも、青年の頭はじんと痺れて動かない。
何か大事な事を忘れている。
しかし忘れていることすら忘れてしまった青年は、先輩の変わり果てた姿を見つめたままゆっくりと地面に膝を着いた。
力の抜けた手からするりと剣が落ちる。
暖かい風が頬を撫でた。
生臭く、怨嗟の色濃い、絶望の息吹だ。
先輩がいる口内が視界を占めるほどに接近され、青年は自然と目を閉じた。
祈るように頭を垂れ、頭の中を空にし、その瞬間を待つ。
ぴちゃり、生ぬるい涎が頭部に掛かり――
「――どうして諦めるの?」
場にそぐわない軽い声が、青年の停滞した感情を揺らした。
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