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青年は自らの死期を悟った。
ギルドでの任務中、貴重な薬草を採る為に分け入った深い森の中で相対した魔物は、図鑑でしか見た事のなかったグラトニーと呼ばれる上位種だ。
大雑把に言えば、下位種のケンタウロスとよく似た造形をしている。
異なる点としてはケンタウロスのように馬の身体的特徴を殆ど持たず、焼け爛れた人間の皮膚に酷似したものが体表を覆う四足二腕二口の異形である事だ。
そう、二口。
「……これが、グラトニーの所以かあ」
呆けた頭のままぽつりと呟く。
頭部の比較的まともな形状をした口とは別に腹部にぽかりと開いた顎。
目の前で見せ付けるように開閉される巨大な顎のただ中、分厚くぬるついた舌の上に鎮座したそれ――青年がギルドに所属してから甲斐甲斐しく面倒を見てくれていた先輩の生首と視線を交わしたその瞬間から、全ての希望という希望が、生きる為の活力が、絶望に飲み込まれてしまった。
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