スライムの干物

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「スライムは食べ物です」 伝説の勇者の一言により、スライムは食べ物へと格下げされた。それまでスライムは世界中に数多くの種類が分布し最も数の多いモンスターとして一般人からは恐れられる存在であった。しかし食べ物と認識されるようになってからは、人々は棒などでスライムを叩いて捕まえると、縄で縛って天日干しにしてスライムの干物を作るのが日常になった。 スライム達は現状を危惧して魔王に陳情を述べにいった。魔王は解決策として、自らがスライムに扮して街に下りて行き、街を恐怖に陥れてスライムを恐怖の存在であると認識させることにした。 真っ黒な姿で禍々しいオーラを放ったスライムの姿で魔王は街へと下りていった。魔王の考えでは、この姿を見ただけで人々は逃げ出すはずだった。 街の外れで魔王スライムは老人と老婆の二人組に出会った。今夜のおかずにスライムを取りにやってきたようだ。彼らの荷物にはすでに二匹のスライムが吊されている。 魔王は沸々と怒りがこみ上げてきた。自分の配下のモンスターが討伐されるだけでも腹立たしいのに、ただの食料として狩られているのだ。 魔王スライムはずしずしと二人組に近づいていった。老人は初めて見る真っ黒なスライムにきょとんとしていたが、直ぐに自分の方から近づいていって、魔王スライムの頭上から棒を振り落とした。 呆気にとられたのは魔王スライムの方である。まさか魔王である自分にこんな老人ごときが挑んでくるとは思わなかったのだ。間一髪のところで棒をよけて、雷と炎で反撃する。しかし老人はスライムをただの食料として認識しているので、怯むこともなく。何度も棒を振り下ろした。魔王スライムはそのたびにゴロンゴロンと地面をみっともなく転がって逃げるのだった。腹が立った魔王が元の姿に戻ろうとしたその瞬間、鋭い衝撃が体を襲った。振り向くと、いつの間にか背後に回った老婆の振り下ろした棒が自分の体を打ち抜いていた。魔王はスライムの姿のまま絶命した。 魔王のいなくなった世界で人々は今日もスライムの干物を作っている。
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