はじめまして、おにいちゃん

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「はじめまして。ぼくはあなたを癒す天使。TAIZAI名、怠惰だよ」 少女の目の前にしゃがみ込む青年が一人。 この青年は先ほど少女の母親が連れてきたアンドロイドだ。 名前を“怠惰”と言うらしい。 緑の服に緑の瞳に緑の髪。何から何まで緑。 窓から差し込む西日にも負けない強い緑。 怠惰の纏う優しい空気が色付けたような緑だ。 「よろしくねぇ」 間延びしたような、おっとりとした喋り。見た目のイメージよりも少し低めな声だ。 怠惰は大きな手を差し伸べ、優しく笑う。 「よろしくおねがいします」 恥ずかしげに母親の後ろへ隠れていた少女は、戸惑いながらも怠惰と握手をした。 その手の冷たさに一瞬驚いたようだが、すぐに手は離された。 「あなたの名前を教えてくれる?」 そう言ってのぞき込む怠惰の大きな瞳は目尻がたれていて、優しさがにじみ出ているようだった。 よく見ればこの瞳はたくさんの色が輝いている。 「さくらいこはるです」 控えめな声が空気を鳴らす。 どうやら、かなり内気な子のようだ。 怠惰は嬉しそうに、にっこりと笑う。 「こはる。こはるちゃん。こはるん。はるちゃん。はる。はるるん。なんて呼んだらいーい?」 可愛らしい呼び名が羅列される。 少女…小春は、それを困ったように、照れくさそうに聞いていた。 「はるちゃんが良いんじゃない?みんなが呼ぶ名前の方が聞き取りやすいわ」 それまで黙っていた母親が横から口を出す。 …この人はいつもそうなのだ。 いつも小春が答える前に勝手に決めてしまう。 小春は何も言わず、ただ困ったように笑っていた。 「はるちゃん。わかった、はるちゃん!可愛いねぇ」 にこにこと、大きな手で小春の頭を撫でる。 その笑顔がたんぽぽみたいであたたかい、なんて思いながら、小春はまた困ったように笑う。 怠惰はその呼び名を気に入ったようで、それから何度も“はるちゃん”とつぶやいていた。 そして、あっと言うように顔を上げ、仕切り直しとばかりに手を叩く 「ぼくはTAIZAI型アンドロイド七号機。はるちゃんと一緒にごろごろしたり、お外やお家で遊んだり、お昼寝したりするのが、ぼくの役目だよ」 改めて自己紹介を終え小春を見ると、なぜだか表情が曇っている。 はるちゃん?と声をかければ、また困ったような笑顔に戻ってしまった。 「よろしくおねがいします、おにいちゃん」 双方の挨拶が終わったのを見届けて、母親は満足そうにキッチンへ戻っていった。    
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