はじめまして、おにいちゃん

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ぱたぱたとスリッパの音が遠ざかるのを待って、怠惰が小春の方へ向き直る。 「はるちゃん、なにしよっかぁ」 小春はまだ母親の背中を追っている。 やがてゆるりと振り向き、小さくはにかみながら怠惰の手をとった。 「おうちをごあんないしますね」 「ありがとう、はるちゃん」 怠惰を連れてキッチン、リビング、玄関、トイレにお風呂、寝室…それから二階の子供部屋と物置部屋と客間、全ての部屋を案内した。 そして再び一階へ戻り、キッチンをのぞき込む。 「ご飯はもう少しかかるから怠惰と遊んでて」 「…はあい」 小春と怠惰は再び廊下へ戻る。 「今日はお天気がいいねぇ。晩御飯ができるまで日向ぼっこする?」 にこにこと小春に目を向ける怠惰。 彼の後ろにある開け放たれた窓から、騒がしい声が聞こえてきた。 遠くから聞こえていた声は徐々に近づき、言葉はクリアに、容赦なく耳へ入ってくる。 「はるちゃん、どうしたの?」 心配そうに見つめる怠惰の姿など、彼女の眼には映っていない。 冷たい汗が背中をつたう。 心拍数は跳ね上がり、歯が微かに音を鳴らす。 「おーい、かんちがいおんなー!でてこいよー!」 「おれたちだけわるものにしていいごみぶんだよなぁ!」 「こんどはなにをチクんだー?って、おれらなーんにもしてねーんだけどぉー!!」 少年達のふざけた笑い声が響く。 明らかな悪意を持った言葉は、この家だけでなく周りの家にまで聞こえるように放たれていた。 「外、さわがしいねぇ。…大丈夫?」 怠惰は窓の外を気にしながらも小春の手を握る。 小春は、はっとした表情で怠惰を見つめ、また困ったようにぎこちなく笑った。 「だいじょうぶです、おへやにいきましょう」 やや強引に怠惰の手を引きながら階段を駆け上がる。 「はるちゃん、はるちゃん、どうして泣いてるの?」 「ないてないですよ」 ぎこちない笑みを貼り付けたまま僅かに肩を震わせる小さな背中。 怠惰はそれ以上何も言えなかった。
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