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小春の部屋でも二人は一言も交わすことなく、ただ寄り添って座っていた。
外の喧騒から逃げるように、寄り添って座っていた。
やがて喧騒は去り、部屋には静寂が染み渡る。
聞こえてくるのは小春の浅い呼吸と微かな…本当に微かなモーター音のみ。
その音が、怠惰は人ではないのだと現実を突きつける。
…どれほど経っただろうか。
階段下から小春を呼ぶ声が息苦しい静寂を突き破った。
「はるちゃーん、ごはーん」
その声に反応して顔を上げる。
「ごはんだよ、いこう」
「うん」
小春は顔を曇らせたまま、重い足取りで降りてゆく。
怠惰はそれに合わせてついてゆく。
キッチンから漂う香ばしいにおいが鼻をくすぐる。
忘れていた空腹を目覚めさせるにおいだ。
そのにおいにつられてリビングへ足を運ぶ。
丁度全ての用意が整ったようで、母親が席につくところだった。
「ほら、はるちゃんの好きなハンバーグだよ!」
香ばしいにおいとデミグラスソースのいいにおいが混ざりあい、腹の虫が苦しげに鳴いている。
「…おいしそう」
先程までの曇った顔はどこかに隠れてしまったようで、小春は頬を緩ませた。
だんだんと笑顔に変わる様子を見て、怠惰は安心したように、またにこにこと笑っている。
「いただきます」
ハンバーグを箸で割れば、じゅわじゅわと肉汁が溢れてソースと混ざる。
ハンバーグを適当な大きさに切って、ソースと絡ませながらご飯の上に着地させ、そして口の中へ運ぶ。
二回、三回と噛み締め肉とソースの旨みに酔いしれた後は、すかさず白米を口へ運ぶ。
この瞬間が至高なのだ。
口の中の幸福を堪能していると青年が視界に入った。
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