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「ごはん、たべないんですか?」
青年の席には料理が並んでいなかった。
「うん、ぼくは大丈夫。食べて動力に変えることはできるけど、もっと効率的なやり方があるから」
こんなに美味しいものを食べないなんて、と言わんばかりに眉を下げる少女。
青年は変わらずにこにことしている。
「はるちゃん、大丈夫よ。怠惰には私たちと別のご飯があるの」
ほら、と怠惰の背を指す。
怠惰の背からはいつの間にかコードが伸びていて、それはコンセントまで繋がっている。
「でんきがごはんですか?」
「うん。おいしいよー」
にこにこと笑う怠惰を見て小春はまた少し眉を下げ、そっかぁと呟いてハンバーグを頬張った。
明らかにしょんぼりとした小春を見て母親は一つ提案をした。
「怠惰も食べてみる?」
反応したのは小春の方だった。
「たべよ!」
怠惰の答えを聞く前にいそいそと食器を並べる少女。母親はくすくすと笑いながら席を立ち、フライパンに油をひいてハンバーグを焼いていく。怠惰は大きな瞳をいっそう大きくひらいて見た。
「いいの?ぼくはご飯じゃなくてもいいのに」
「私のご飯より電気の方がいい?」
母親の言葉に怠惰は黙り込む。
しかし怠惰の瞳は期待に輝いていた。
そわそわとキッチンの方を見ながら髪や服を整えたりしている。何度も、何度も。
そうしているうちに焼きあがったようだ。
ことり、と青年の眼前に皿が置かれる。
香ばしいにおいの湯気が青年をつつんだ。
「いいにおーい!」
「はやくたべよ!」
はしゃぐ小春と怠惰。
母親も笑って席につく。
「それじゃあ、もう一回。いただきます」
「いただきます!」
母親の号令に従って小春と怠惰も声を揃えた。
箸でハンバーグをやや大きめに割り、ソースをたっぷりと付けて口へ運ぶ。
小春と母親に見つめられながらゆっくりと咀嚼をする怠惰。
眼を大きくひらいたかと思えばうっとりと細め、口角はこれでもかというほど上がっている。
「おいしー!」
これが漫画なら怠惰の周りには花畑が広がっているだろう。
頭から、ぽぽぽぽぽっと間の抜けた音を発しながら花が咲くのが目に見えるようだ。
その姿を見て、怠惰と母親は嬉しそうに顔を見合わせる。
そして仲良く三人でご飯をたいらげたのだった。
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