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たばこ
「たばこ……吸うの?」
「っ……」
突然背後からの声に、心臓が飛び出しそうになる。
「ハ、ハルさん」
日本家屋に似合わない長身を少しかがめ、僕を不思議そうに見下ろすシェアメイトのハルさん。
「うん……まぁ……時々」
シェアハウスのルールを破ったうえに喫煙を咎められ中学生のような気分になり、慌てて半分も燃えていない煙草を消そうとした時、
「俺にも一本くれる?」
「……え……ハルさんも、吸うの?」
作業着を着て、タバコが似合いそうな雰囲気ではあるが、僕は一度も彼が煙草を手にしているところを見たことがない。
「うん。まぁ、時々ね」
本心なのか冗談なのかわからない表情で、僕の口真似をするように言う。
「いいけど……古いたばこだから湿気ってるよ」
「構わないよ。チアキと同じので」
僕の煙草を口に含んだ顔が、これも湿気った僕の手にしたライターに近づく。不意に名前を呼ばれた緊張と、湿気でうまくライターに火がつかない。それでもハルさんはじっと火がつくのを待つ。何度もカチカチと空振りをするライターに火がつく間、僕は彼の長いまつげと筋の通ったきれいな鼻先に目を奪われていた。
「……本当だ……湿気てる……」
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