たばこ

2/7
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「だから言ったじゃん……」 「なんで、こんなの吸ってるの?」   何度か煙を雨雲に向かって吐き出したハルさん。即答できない問いかけに僕はわざと長く煙を吸う。 「えっと……なんでかな……なんとなく?」  無駄な緊張が声を上ずらせる。 「……そんな日も、あるよな」  ハルさんはそれだけつぶやくと、殺風景な庭に視線を戻して黙ってまた煙草をふかす。  雨のしとしと降る音だけが響く、僕とハルさんしかいない古民家。二人黙ったまま静かに煙草の煙を吸っては吐き出す。 「邪魔して悪かったね」  随分と短くなった煙草を、土の上で消すとハルさんはすくっと立ち上がる。 「邪魔なんてそんな……」  僕もハルさんに倣って火を消す。ふと、見上げたハルさんが優しい笑みを浮かべていた気がした。  気がついたら、大丈夫の呪文を唱えていないことに気が付いた。 「ありがとうございます」 「……なにが?」 「えっと……その……」  傍にいてくれて。  それは僕の勘違いかもしれない。でも、お礼が言いたかった。 「たばこ、ごちそう様……お礼にさ、飯食わない?」 「え?」  唐突な飯の誘いに僕は目を白黒させる。 「職場でジャガイモ沢山もらったんだ。食いきれないから手伝ってよ」 「え……あ、はい!」     
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!