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そういえば今日は金曜日。シェアメイトのほとんどはきっと会社や学校の飲み会なのだろう。6時を過ぎても誰も帰ってくる気配はない。
「ジャガイモを箸で挟んで、薄切りにする。切断しないのがコツね。そう、そんな感じ」
部屋で待ってていいからというハルさんの指示に従わず、僕はハルさんと並んでキッチンに立つ。
「切り口にオリーブオイルと塩ふってオーブンで焼くだけ。簡単だろ?」
ジャガイモを切る僕の隣で、ハルさんは指示を出しながらサラダの用意をする。
ハルさんの体温すら感じられるのではないかというくらい近い距離。僕はなるべく意識しないよう手元に集中する。
「痛っ」
シェアハウスの誰も研がない包丁は時に凶器になる。滑った刃先がジャガイモではなく、僕の指を切り、一瞬の間を置いてとろとろと血が流れだす。
「そりゃ痛いだろう」
ハルさんは手際よく救急箱を取り出し、手当の準備を始める。
「ごめん。でも、大丈夫だから」
「大丈夫じゃねぇよ」
ハンカチで適当に止血して済ませようとした僕の手をしっかりと握る逞しい手。逃れようとしても、ごつごつとした男らしい大きな、僕の大好きな手はしっかりと握られ僕を離さない。
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