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「私、身長180cm以下の人は無理なの」
と、立ち去っていく女性の後ろ姿を、雲渡順平は何人見送ったことだろう。
これまで交際してきた数少ない女性たちにフラれた理由も「身長が低い」ということを暗に指摘されてのことだった。
それが当時の彼女の本音だったのか、適当な理由を見繕っただけなのかは定かではないが、勉強もスポーツも人一倍の努力でカバーしてきた順平にとって「身長が低い」と言われることこそが、どんな欠点をあげつらわれるよりもつらいことだった。
もうこんな人生は嫌だ。
思いつめて誰もいない公園に向かった順平は、鉄棒に足をかけて逆さの状態のままぶら下がり、ひと思いに重力に身を任せるのだった。
勉強も不得意ではなく、スポーツもそれなりに出来る。クラスの中で浮いていることもないし、男女かかわらず友達も多い方だ。
しかし女性から恋愛対象として見られることは少なかった。
そしてその原因が年齢に不相応な身長のせいだということは、順平自身も薄々自覚していた。
身長があと10cm高ければ自分の人生は大きく変わっていたのではないか。身長が低いせいでこれからの人生も、こんなみじめな思いをして過ごさねばならないのだろうか。
認めたくなかった。
認めてしまったら、自分に対して残酷な言葉を残して去っていった女性たちのその言葉が真実になってしまう。それは身長に対してコンプレックスを抱えている順平にとって「絶望」を意味していた。
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