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大学生になった順平だったがその身長はやはり心もとなく、もともと童顔なこともあって中学生に間違えられるほどだった。
ある日、順平の悩みを知ってか知らずか、医学部の同級生に薬の治験の話しをもちかけられた。
大学病院で研究している新薬の被験者になるというものだった。
思わぬ高時給バイトにこれ幸いと飛びついた順平は、指定された時間に大学病院の研究室へと出向くと「博士」と呼ばれる男が一錠の薬を持ってやってきた。
その薬は世界で初めて開発に成功した、服用するだけで身長が伸びる薬であるという。
「いまはまだ治験の段階だが、本格的に使用が可能になれば、身長が低い人のコンプレックスを解決することができるだろう」
希望に満ちたまなざしで話す博士の言葉を聞きながら、順平は自然と涙を流していた。
ぜひその薬を自分で試させて欲しいと訴える順平だったが、その反応を見た博士の顔は曇っていた。
博士の話しにはまだ続きがあったのだ。
その薬には革新的な効果の代わりに大きな副作用があり、身長が手に入る代わりに寿命が縮んでしまうのだという。
服用することでどの程度身長が伸び、どの程度寿命が縮むのかは分からない。この治験は危険と隣り合わせの賭けであり、前途ある若者に使わせるわけにはいかない。
順平を見ていて博士はそう思い直したという。
しかし順平はそれでも構わないと思った。
身長が低いことで今までどれだけ不利益をこうむってきたのか、人になめられてきたのか、人は見た目が9割と言うが自分は違う。身長も入れて10割だと博士に向かって訴えた。
順平はこれまでの人生で心にしまっていた思いの丈を吐露していた。
身長が低いというだけで人にあなどられてきた。いじめられてきた。誰かにばかにされ上から見下ろされるたびに、そこには一生変わらない立場の違いのようなものがあるように思え、変えることのできない現実を突きつけられているような気がした。
順平がすべての話しを終えたころには、気がつけば日は落ち、あたりはすっかり暗くなっていた。
博士はひざをついて涙を流す順平のもとに歩み寄りそっと肩に手をかけると、順平の手に完成したばかりの新薬を渡した。
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