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城戸浩太郎は星を眺めていた。
寂しくなったときはいつも丘の上に立つ誰もいない広場にやってきて、満点の星空を眺めては両親に思いを馳せるのだった。
浩太郎の母親は彼がまだ幼い頃に交通事故で亡くなり、研究者だった父親も過労の末、病に倒れ亡くなった。
のちに「博士」と呼ばれるようになる城戸浩太郎が父親と同じ研究者の道に進んだのは、このときに聞いた天からの声がきっかけだった。
月が姿を消し、星だけが光る夏の夜だった。見上げていた夜空が突然昼間のように明るくなったかと思うと、目の前に現れたまばゆい光に視界を奪われた。
光の中心から現れたのは異様に長い腕と身長2mはある「それ」だった。「それ」は二足歩行で歩きながら浩太郎の前にやってきて、1錠のカプセルを差し出した。
間近で見て「それ」がはじめてマスクのようなものをかぶっていることに気がついた。
鈍い銀色をしたマスクから発せられた音は、強いノイズが混じっており、その音が日本語であることにすぐには気がつかなかった。
地球を救う薬。
「それ」が差し出したカプセルはこの星を争いや食糧危機、エネルギー問題や恐怖心さえも解消してくれる希望の薬だと説明した。
「それ」は浩太郎に薬を渡すと、踵を返して光の中に消えていった。
光はゆっくりと上昇を始め、暗い空の中へと吸い込まれていき、やがて小さな点となり最後には消えた。
浩太郎はこのとき、この薬を完成させ、多くの人のために新たな新薬を開発することをが自分の使命のように思えた。
「それ」の正体がなんだったのかは分からないが、後ろ姿や口調、歩き方にどことなく父の面影を感じていたのだった。
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