33人が本棚に入れています
本棚に追加
家は元々貧しかったが、去年は田畑の何もかもが不作で、労役に出た先で父が死に、そこからはもう坂道を転がり落ちるようだった。
どこも似たような調子だから、年貢も借財の取り立ても厳しくて、野草の根を掘り返して食らって飢えを凌ぎ、売れるものはすべて売り払った。
物も、人もだ。
一人だけいた、十にも満たない妹は、真っ先に人取りに手を引かれていった。
それでも、藤助の家の暮らし向きが楽になることはなく、弟は口減らしにと川に流され、母は流行り病に倒れて呆気なく逝った。
最後の家族は、三つ違いの兄だった。
両親を助け、藤助ら弟妹の面倒をよく見てくれた。
優しい兄だった。
母と同じ病を得、衰弱し、もう水すらも満足に受けつけなくなったその人は、死の床で、絞り出すように藤助に言った。
「お前なんて…いなければ、良かった」
どうして俺が死ななくちゃいけない、お前が死ねば良かったのに、俺が生かしてやったのに――しわがれた怨嗟の言葉を吐く兄の、黄ばみ、血走った瞳の色が忘れられない。
ひもじいのは、性根すら曲げてしまうのだと、知った。
人は死ぬのだ。
呆気なく。
もがいても、もがいても。
最初のコメントを投稿しよう!