贄となりても

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「また一段と可愛げのない(わらべ)が送られたものじゃなぁ」  半月後。  揃って笠を目深にかぶった大人たちに連れられて、藤助は石造りの鳥居をくぐった。  その鳥居は、森の中にぽっかりと開いた穴のように異質で、春先にあってなお、氷室のように底冷えのする冷たさを吐き出していた。  鳥居の奥には、質素な社。  藤助は、その中のひときわ大きな柱に、逃げ出すことがないよう括られた。  社を極力汚さぬようにと数日前から食を断たれていたから、空腹感はもはや息をするのと同じくらい当たり前でしかなく、食い込む縄の痛みも遠い遠い出来事のよう。  いつ自分の命が途切れたのかも、藤助には定かでなかった。 「――あんたが、神さんか」  確信があった。  クツクツと嗤うその姿は、汚れも、破れも、継ぎ当てもない衣で覆われ、処女雪のように真っ白で。  高く結い上げた髪は、長い長いぬばたまの黒。  つり気味の目元や秀でた額には、鮮やかな朱が赤々と施されていた。 「いかにも」  たおやかな仕草で首肯する姿は気だるげだ。  今に欠伸を――いや、午睡を始めそうな様子に面食らいながら、藤助は問う。 「俺は、神さんにこれから喰われるのか。それとももう喰われたのか」 「そなたを喰らうのはこれからじゃなぁ」 「俺は死んだのか」 「そうさなぁ。ひととしてのお前はもうないのぅ」 「そうか」  どうやらお役目を無事果たすことができそうで、安心した。  神様がどうやって子どもを喰うのか知らないが、あとはもう頭からでも(はらわた)からでも、むしゃむしゃ喰らってもらえばいいだけだ。  なるべくなら、痛かったり、苦しかったり、つらかったりしないといいなと思った。  神様は、そんな藤助の様子を、おかしなものを見る目つきで眺め回した。
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