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「そなたは、泣きも喚きもしないのじゃなぁ」
「ちゃんと考えて、諦めたから」
「己を――生きることをかえ?十かそこらのその齢で?」
「そうじゃ。どうせすぐこうして死ぬんなら、もっと早くに諦めて、兄さぁを楽にしてやれればよかったとは思う」
藤助を忌々しく呪う今際の言葉を、姿を、忘れるべくもなかったが、それでも兄は兄で、優しかった面影ばかりがちらついた。
もっと早く、何かの形で藤助が間引かれていたならば、兄の口に入る食べ物は少なくとも倍にはなったはずで、そうすればきっと兄は死なずに済んだ。
兄は精一杯、弟である藤助を生かそう、生かそうとしてくれた。
だから藤助も、叶うなら少しでも長く、兄に生きていて欲しかった。
それが叶わぬ願いならば、せめて誰かのためになって、誰かの役に立って、誰かの命をつなぎたかった。
「――ほんに、おかしな童じゃ。神饌に差し出されてなお、さように思うとは」
気に入った、と神様は嗤う。
にっかりと、愉快そうに、赤い赤い唇の端を持ち上げて。
「そなた、わたくしの代わりに神におなり」
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