贄となりても

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「そなたは、泣きも喚きもしないのじゃなぁ」 「ちゃんと考えて、諦めたから」 「己を――生きることをかえ?(とお)かそこらのその(よわい)で?」 「そうじゃ。どうせすぐこうして死ぬんなら、もっと早くに諦めて、兄さぁを楽にしてやれればよかったとは思う」  藤助を忌々しく呪う今際の言葉を、姿を、忘れるべくもなかったが、それでも兄は兄で、優しかった面影ばかりがちらついた。  もっと早く、何かの形で藤助が間引かれていたならば、兄の口に入る食べ物は少なくとも倍にはなったはずで、そうすればきっと兄は死なずに済んだ。  兄は精一杯、弟である藤助を生かそう、生かそうとしてくれた。  だから藤助も、叶うなら少しでも長く、兄に生きていて欲しかった。  それが叶わぬ願いならば、せめて誰かのためになって、誰かの役に立って、誰かの命をつなぎたかった。 「――ほんに、おかしな童じゃ。神饌に差し出されてなお、さように思うとは」  気に入った、と神様は嗤う。  にっかりと、愉快そうに、赤い赤い唇の端を持ち上げて。 「そなた、わたくしの代わりに神におなり」
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