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5日目・チョソムの宣告
久麗爺は新しい科学屋を車いすで点検した。
「本来は、災害出動で避難所の設営訓練に使う棟です」
「なるほど」
桜井の説明に、久麗爺は肯く。
倉庫の隅には、四畳半の私室が再現されていた。ワニ型寝袋もある。天井の監視カメラは前からあった。訓練の様子を録画するためだ。
「今時、そんなの付けてる人はいませんよ」
「良いじゃない、女らしいし」
菱見が桜井に言った。桜井一等陸曹は白衣を着て、頭にナースキャップをしている。自衛官らしからぬ服装だ。
しかしながら、PKOやPKFで海外へ行った時など、白いヘルメットで国連軍の一員を示す場合ある。一概に、白装束が自衛官らしくない、とは言えない時代だ。
「うん、看護婦らしくて良いね」
久麗爺は同意した。介護士の菱見は口を尖らせる。
カーテンを開けると、部屋に光が満ちた。
窓の向こう側に、デーハンのロボットがあった。未明の内に運び込まれていた。頭と腕だけ、腕部が左右に開いて置かれている。
「なんか、サケの開きみたいだ」
久麗爺が言うと、桜井と菱見も一緒に笑ってしまった。
朝食後、久麗爺は外に出た。菱見が車いすを押してくれた。
「あれは基地指令の古谷一等陸佐です」
じっとデーハンロボットを見上げる長身の男を指し、菱見は言った。向こうも気付き、敬礼してきた。
腕部だけになったロボットを間近に見れば、やっぱり間抜けに見えた。
「連中は、取り返しに来るでしょうか?」
「来るかもしれません。でも、こちらの法律や礼儀を重んじての訪問は、あまり期待できないと思います」
古谷の問いに、久麗爺は斜にかまえて答えた。
「不法入国に家屋不法侵入、拉致誘拐に器物破損・・・色々やり放題でしたねえ」
古谷は右頬をひくと動かし、深呼吸した。
「久麗さん、あなたを臨時に一等陸士に任じます。以後、上官の指示に従って行動して下さい」
「陸士・・・昔で言うと一等兵ですか」
うむ、古谷が頷いた。
「聞きたいのですが、給料は出ますか?」
久麗爺が上目遣いに聞くと、古谷は拳を作って胸をたたいた。
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