狐花

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狐花

赤 朱 真っ赤 四季を忘れた庭の隅で 血潮のように紅く赤い 曼珠沙華が咲き乱れる 此処は神去(かむさり) 零落した者と 妖が留めた四季亡き庭 花々は咲き乱れ鳥達は(さえず)り合って さわさわ さわさわ 幻想を連れて吹き抜ける風に 曼珠沙華は淡く揺れ ぽつん 細道から少し外れ、腰掛けるのに丁度良い 小さく黒い岩の上 まだ、幼さが残った少年は薄色の髪を風に遊ばせ惚けたように一面の朱を眺め続ける なんて綺麗なんだろう 細い茎の先 (たわ)む華奢な花弁は くるんと丸まって 取り囲むように突き出た柄は 軽く曲げた細い指先にも似て 彼岸に咲くから彼岸花と言う そんな由来より 手弱女(たおやめ)が折れそうに その細い指先を曲げて 何かを必死に掴もうと 現し世ならぬ幽世に 引き摺り込もうとして見えるから 彼岸花と言う方が、余っ程らしいのではなかろうか?なんて事を考えては一面の赤に見蕩れる がさっ がささっ 細道に近い 茂みが揺れて騒ぐ ざっざっ ざざっ 「夕月!やっぱり居た!」 薄氷のように澄んだ声音と共に 少女と呼ぶには あどけない女童が 背丈より高い茂みを押さえつつ 嬉しそうな顔で転び出て 「また見てるの?」 赤色の着物に付いた葉っぱを払いつつ 此方に近寄って来る     
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