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僕だって料理はするけれど、たぶん、彼の方が上手い。
野菜を手早く切って、長ネギの頭、人参のしっぽ、しいたけの軸は捨てずにみじん切りにして、鶏団子に混ぜるという手練れぶり。卵を一つ溶いて混ぜてあるので、火が通って出汁を吸うと、ふわふわの食感になる。鶏団子の鍋は、僕の好物だ。
こんもりかぶせた水菜を、土鍋の蓋で閉じ込める。あと数分もすれば食べられるようになるけれど、好物の鍋が煮えるのを待つ時間が、こんなに苦しかったことはない。
普段通りに世間話を仕掛けてくる彼に、うん、と、ううん、だけで返事をするのはもう限界で。
ドン、テーブルを叩くと、カシャン、重ねた皿が不安げな音を立てる。
「ねえ、はやく、俺のこと振ってよ……」
「真下?」
「なかったことに……してくれようとしてるんでしょ?」
「真下」
「はやく、振って」
僕は必死に声を絞り出して、懇願した。
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