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モーニング
sideM
半年前から、毎週水曜日は支社へ出向することになった。いつもより一時間早く起きて、いつもと真逆の電車に乗って、慣れない駅で降りる水曜日。もう何年も支社での案件をいくつか担当していて、不定期に行き来していたから、環境が激変したとかいう感覚はない。寝汚い自分にとって、週の半ばの早起きは少々辛いものだが、まあなんというか、その程度。
目の端に、茶色いトレイが映る。
(あ、来た)
不躾にならないように、ちらりと横目で、一人分空けた隣の席を見る。
トレイの上は、いつものようにトーストとジャム、それにブラックのホットコーヒーという店で一番シンプルなメニューだ。カタン、と、テーブルにトレイを置くと、湯気を立てるコーヒーをよそに、まずは鞄からタブレットを取り出す。すいすいとしばらく画面を操作したあと、思い出したようにカップの取っ手をつまみ、音を立てずに一口飲む。
空席を挟んだ右隣の男の動作をそうやって眺めながら、自分もまたカフェオレを一口飲み込んだ。
(あーあ、なにやってんだか……)
早起きが少々辛い程度の、水曜日。
いつもと真逆の電車に乗って、慣れない駅で降りて、駅前のカフェでモーニングを摂る水曜日。
週で一番、心浮き立つ日だった。
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