モーニング

2/4
275人が本棚に入れています
本棚に追加
/149ページ
 いつから彼の存在に気付いたのかは、実は憶えていない。最初にこの店でモーニングを食べていた時、既にあの席に彼はいたのだろうか。意識して座るようになったのは、そうだな、ここ三ヶ月くらい。  年の頃は、自分と同じくらいか、少し上。短めの髪は、前髪を掻き上げたトラッドなスタイルで、丁寧に剃刀を当てた顔は、少し冷たいくらい整っている。いつも上下揃いのスーツではないから、営業職ではなく内勤なのかな。今日は、濃いグレーのツイードジャケット、その下は黒のタートルネック。控えめなチェックのスラックスに包まれた長い脚を組むと、黒の靴下が裾から覗く。  彼も同じように、今から会社に行くのだろうか。  どんな職業なんだろう。デザインとか、編集とか、似合うな。  前に一度、社員証なのか名刺なのかはわからなかったが、ちらりと見えたことがある。ローマ字の振り仮名しか見えなかったけど、Sから始まる名前だったような気がする。  またふと、彼がタブレットに指を伸ばす。文字のぎっしり詰まった画面は、もしかして、新聞なのかもしれない。せいぜいネットニュースと、会社で仕事に関連する記事を流し読みする日もある(ない日のほうが多い)、なんて自分と違って、社会人って感じが滲み出ている。 (かっこいいよなあ)
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!