275人が本棚に入れています
本棚に追加
/149ページ
sideM←S
(どうしよう)
いつもの水曜日。いつもの、心浮き立つ水曜日。
でも、今日は少し違う。
彼が、すぐ隣にいる。
きっと出張なのだろう、三人連れの自分と似たようなサラリーマンが、いつものあの場所に座って、今も何やら仕事の話をしている。先客によっていつもの場所を追いやられた彼が、少し迷うようにうろついた後、手近な空席、つまり自分の隣りに座ったのだ。
油気なくセットされた髪に、銀色に光る若白髪を一本発見してしまった。それに、今まで気付かなかった煙草の残り香。キャメルのジャケットから出た手首には、テンデンスの腕時計が嵌められている。
トーストとジャム、ブラックコーヒーのシンプルなセットをテーブルに置いて、椅子に腰掛けながら足元に鞄を――
「おっと……すみません」
思ったよりずっと柔らかい声。
倒れてきた鞄を受け止めた脚が、びくりと跳ねてしまわなかったろうか。
「あ、いえ、大丈夫です」
「今日はホットドッグなんですね」
「え?」
「不躾にすみません。よくお会いするなあ、と思って」
「あの、はい、俺もそう思ってました……」
「朝からよく食べますね」
「うわ、はい、お恥ずかしいです」
「はは、なんで?」
「あれ、はい、俺何言ってんですかね」
終わり
最初のコメントを投稿しよう!