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中途採用の彼と新卒採用の僕は、同期ではないのだけれど同い年で、僕がこの支社に転勤になってから最初に仲良くなったのが彼だ。前職はまるで畑違いの営業職で、人当りが良くて穏やかで機転が利いて、専門用語をずらりと並べた書類とにらめっこばかりで電話さえまともに取れない僕にとって、ひどく憧れる人物だった。
「今日の鍋は、白湯仕立ての鶏団子鍋。水菜たっぷりで」
お互い寂しい一人暮らしということで、寒くなるとよく鍋をつつくようになった。先週も僕の部屋で、ちょっと奮発して牡蠣の土手鍋を作ったばかりだ。
「なに?鶏団子じゃやだ?」
「ううん……」
さっきからずっと、気後れして喋れない。
なんで来たの?電話、無視したでしょ?混乱しながら彼を見上げると、ん?と、とびきり優しく見返されて、僕はたまらなくなって目を逸らす。ふわり、と、彼の指が僕の髪を撫でた。
「寝癖。あと、スーツくらい脱いで来い。台所、先に使わせてもらうな」
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