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そもそもは彼女の荷物を取りに行くのが目的である。
千尋のマンションは大学からもバイト先からもそう遠くなく、むしろ実家より通いやすいと聞いて、さっそくこちらに越してきてもらうことにしたのだ。彼女は急なことに驚きつつも了承してくれた。
荷物はひとり暮らしをするためにまとめていたところだという。段ボール箱が四つくらいで家具類はないらしい。これなら業者に頼むまでもないが、自家用車は手放していたのでミニバンをレンタルした。
夜にしたのは彼女の父親が帰宅する時間に合わせてのことだ。ついでに挨拶をしようと考えて。彼女は書き置きを残してくれば十分だというが、それでは後々面倒になるのが目に見えている。
自宅に行くまえに管轄の役所に行き、彼女の戸籍謄本を取り、転出の手続きを済ませ、新しい婚姻届をもらっておいた。
おまもりとして渡していたものはかなりくたびれているし、何より職業が記入したものとは変わってしまったので、新たに書き直すことにしたのだ。以前のものはハルナが大事に持っておくという。
あとは証人だけである。すでに頼めそうなひとに電話で連絡を取っており、あした会う手筈になっている。断られてもまだ他に心当たりがあるし、彼女のほうでも頼めそうなひとがいると言っていた。
準備は万端だ。
もう何があっても引き返すつもりはない。どれだけ反対されても、怒鳴られても、殴られても、妨害されても--千尋は決意を新たにして、ハンドルを握る手にそっとひそかに力をこめた。
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