23人が本棚に入れています
本棚に追加
1、中学までの彼女◇sideH
彼女の名は樋ノ内咲月といった。
美しく気品に溢れた少女だった。
私は彼女と仲良しだったが、引き立て役にしかなれなかった私は誰よりも彼女が妬ましかった。
私が彼女と初めて会ったのは、7才のとき。彼女が知人宅の近所に越してきたときだった。その知人というのは父が勤める会社の元上司とういうやつで、よく父を家に招いてバーベキューやらパーティーやらを開くのだ。その日も例に漏れずサンドウィッチパーティー開くというので、4才の弟を連れてお邪魔していた。準備に勤しんだ私はサンドウィッチの昼食後、暇を出された。両親はまだしばらくおしゃべりを止めそうにない。おしゃべりが一段落して片付けが終わるまでは結構時間がありそうだった。
だから私は団地の中心にある公園に向かったのだ。
そこに彼女が立っていた。
小学校時代、男子に容姿のことでからかわれ泣いていた私に彼女はこう言った。
「今に、今にきっと美琴さんの本当の良さがわかってくれる子が現れるわ。だから今は耐えるの。」
と。私よりも傷ついた瞳で、紅茶色の宝石をはめ込んだかのごとく美しい瞳で、私の手をぎゅっと握りしめて言ったのだ。
私の手を握った手も、ハンカチを差し出した手も、そんなときでも嫉妬するほど嫌に生白かったことを覚えている。
普通だったら友情に感動する場面だったかもしれないが、このケースにはそれは当てはまらなかった。そんなことを人に言ってられる余裕があるということが、そして見た目だけではなく心も美しいのかということが、私の彼女を憎らしいという心の芽に目一杯の水と肥料を与えただけだった。
6年生になるころには小学校中の全ての男子は彼女に憧れ、全ての女子は彼女を羨み、あるいは私のように妬んだりした。特に2番目に人気のあった川端飛鳥ちゃんなんかは相当なもので、女子グループを作って事あるごとに彼女に突っかかったり、いつもいじめてやろうと画策していた。それはついぞ成功することはなかったが、それは単に彼女の周りには常に男子がわらわらといたからにすぎない。やはりいくら気が強くても男子の目は気になるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!