第一章 砂漠の一家

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  第一部 タナカ・トモローの遭難     第一章 砂漠の一家      1  僕は頭に強いショックを受け、記憶をなくしているようだった。五分ほど前に意識を取り戻したのだが、困ったことに自分が置かれている状況が全く分からない。  これは非常にまずいことだ。動揺して四方を見回すと、広大な砂漠めいた荒地が延々と広がっている。  遠くは陽炎となってかすんで見えにくく、あいにく自分が今いる場所の特定はできない……おそらく中国内陸部だろうか? いや、ひょっとすると全く外れてアフリカ辺りかもしれない。空気の感じが、何と言うか大陸的な匂いがする。次の行動に移る前に深呼吸をして、冷静さを取り戻す努力をしてみる。  自分の中に眠っている獣の五感や本能を呼び起こすため、座ったまま感覚を研ぎ澄ませることにした。  それでもやはり、どんなに眼を凝らしても人影はおろか建造物さえ見当たらない。  時間は……まだ正午過ぎぐらいだろうか。頭上の太陽が、露出している腕に容赦なく照りつけてくる。どう考えても砂漠にそぐわないダークグレイの制服のような物を着ているが、なぜこんな服を着ているのかもよく分からない。                                      おまけに装備しているものといえば貧弱だ。食料はおろか水さえ持っていない。自衛用なのか桜に翼のマークが刻印されているハンドガンがショルダーホルスターに入っていたが、肝心の通信機は見当たらず、携帯できる電話や端末も持ち合わせてはいないようだ。……孤立無援という言葉が、ぼやけた頭をよぎった。  落ち着いてくると、やけに喉が渇いてきた。そもそもどれくらいの時間、意識を失っていたのだろうか。  不思議なことに身体には怪我をした所もなく、あちこち痛むが骨折もなさそうだ。立ち上がって普通に歩くこともできた。よく見ると大地に車両のものと思われる轍と足跡が続いていた。この足跡は自分が付けた物と思われる。  こんな所にどう考えても場違いな自分がいる。胸中に、どんどん不安の影が広がってきた。
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