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自分の名前は……タナカ・トモロー。
なぜか、すぐに思い出すことができたが、多分自分の出身は東アジアの島国だろう。他の身近な人々の顔も思い出してみる。
ジュリア……キヤマ……これはとても親しい女性の名前だと確信した。なんだか、心情的に温かみを感じる。もやもやとした霧が晴れるように、彼女の美しい顔立ちが思い出されてきた。波打つ茶色の髪はまとめられ、小さな顔と大きな青味がかった目が印象的な女性だ。少し甲高い声色まで覚えている。
昨日交わした会話は何だったのだろう。ひょっとして僕の恋人だろうか。いや、制服姿の彼女しか思い出せない。もっとビジネスライクな関係だったのかもしれない。
最初に思い出した人物が女性とはどういうことだろう。他にも頼りにしていた人達を思い出してみたが名前までは浮かんでこない。
僕は一体何者なのだろう、今まで何をしていたのか。なぜこんな所に放り出されて一人になっているのだろう。
だめだ、いつまでも立ち止まったままではいけない……前進しなくては。
砂埃舞う砂礫の砂漠は不毛地帯と呼ぶにふさわしい。コンパスもない状況では、かなり辛いが車両の轍をたどって行くことにした。
どこかに人影はないか、いや建物でも車でもいい。絶望の中、希望を見出すことに必死になった。
長い間、陽射しに当たったせいだろうか、全身がだるくなってきた。もうすでに脱水状態になりかけているのかもしれない。地面に落ちている表面がすべすべとした小石を拾い上げ、それを服でぬぐった後、口に含んで舌の上に乗せた。こんな物でも渇きを忘れさせてくれる効果がある。
どのくらい歩いただろうか。遠くに見える赤茶けた不毛の山々はかすんで見える。
顔が熱くて仕方ない。しかも乾燥してきたのか両眼がゴロゴロする。異物感にさいなまれ、まともに開けていられなくなった。
どうも僕は今、コンタクトレンズを装用しているようだった。この目の症状はコンタクトレンズのせいかもしれない。記憶をなくした焦りから少し落ち着いた僕は、瞼の上からコンタクトレンズの感触を確かめた。
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