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「兄さん! 羊と一緒でよかったら後ろに乗りな。ドンハとヘイスーに感謝するんだな!」
僕は喜び勇んでトラックの荷台に飛び乗った。羊は獣臭かったが今の僕には逆に心地よいぐらいだ。前の方に積んであったバケツの水に顔を突っ込んで、がぶ飲みしていると誰かの声がした。
「あんた、それは羊用の水だぜ」
びっくりして顔を上げると、フードを被った少年が背後に立っていた。意識が朦朧としていたのか、荷台にも人が乗っていることに全く気付かなかった。
「どうりで格別うまい水だと思ったよ」
僕はそう言いながら声の主をよく見た。
その子は僕と同じアジア系の顔立ちをしていたが、ラフな作業着のような服装からは どこの国の人間かを判断することは難しい。最初は判らなかったが、どうも女の子らしい。羊の世話をしていたのか顔が薄汚れている。
「砂漠で何をしていたの? 何で一人だけ、置いてかれたの?」
「それはこっちが訊きたいよ。信じてもらえないかもしれないが、記憶を失くしたみたいなんだ」
「本で読んだことはあるが、本当に記憶を失くした人を見るのは初めてだ」
僕が正体不明の怪しい男なのにも関わらず、その若い女性は特に警戒心もいだかずに色々と尋ねてきた。
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